みずがらす
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【テキスト】リアル童話2
『あの童話を劇画に◆

あちこちですすり泣きが聞こえる。花が、木が、そして空が泣いているのだ。
 僕の隣で、一つ下の弟が囁いた。「どうして、人は死ぬんだろう・・・」僕は答えられなかった。きっと、花や木が枯れてしまうのと一緒なんだよという答えでは、弟はもう満足しない。
 愛する人の死。愛というものが何なのか、僕にはまだ説明できない。しかし数分前に、僕のからだは理解した。失いたくないもの。失うと、目眩がするほど苦しくなるものだ。
 ジリジリと照りつける太陽。からだの表面と内側が、同時に焼けるような感覚を味わった。汗が頬を伝い、顎に届いた所でぽたりと垂れる。涙かと思ったが、僕はまだ泣いていなかった。
 いつ頃からだったろう。彼女が僕ら兄弟の傍にいるようになったのは。血管も透き通るような透明な肌に、ぽっと紅を差したような赤い唇。黒檀のような黒髪に大きな瞳。しなやかな腕はフライパンを持つと奇術のように器用に動き、ほっそりとした足は箒を持つと魔法のようにダンスする。僕らはそれを眺めるのが大好きで、彼女自作の唄に合わせて毎日一緒に歌ったり、家事を手伝ったりした。
いつのまにか彼女の面影が夢に出てくるようになり、弟もそうなんだろうかと心配になり、彼女は一体誰を想っているんだろうと不安になった。僕だけのものにしたいと思った。告白をしたら、きっと彼女は出て行ってしまう。だから、ずっとずっと心に溜めていた。
 それなのに。それなのに彼女は、何も言わずに逝ってしまった。ねぇ神様。僕らは何か悪いことをしたの?母親のようで、姉のようで、妹のような彼女が僕らの元から逝かなければならないその原因は、僕らにあると言うのですか?
 彼女は此処に来た時から、何かを隠していた。追われているみたいだった。僕らは何も尋ねなかったけれど、きっと彼女の過去には何か悲しい秘密かあったんだと思う。普段はそんな様子など見せないけれど、ふとした瞬間、例えば寝る前に月を見上げておやすみのお祈りを唱えたほんの数秒の間、彼女はまるで月に何か忘れ物をしてきたみたいに、悲しげな表情を浮かべていたのだ。泣き出しそうなその瞳の奥底に、僕らには言えない重大な心配を抱え込んでいたに違いなかった。この事に気付いていたのは僕だけかもしれないけれど、ふとした会話の中・・・例えば家族の話をする時なんかに、彼女は瞬きするほど短い一瞬間だけ顔を曇らせるのだ。死因がその悩みに関する事だとしたら、僕らは何も彼女の助けになってやれなかったことになる。無力で、無念で、涙も出ない。
 彼女の眠る棺桶に、花を投じる時間が来た。張り詰めてヒビが入りそうなくらい厳粛な空気なのに、花園の中に横たわる彼女は柔らかく微笑んでいる。僕らにありがとうを言うみたいな顔だった。お礼を言いたいのは僕のほうなのに。
 ふと目を上げると、見知らぬ男性が数メートル離れた所に立ちすくんでいるのが見えた。この辺では見かけない、端正な顔立ちをした外国の男だった。参列者が皆が息を飲み、一斉に彼を見つめる。勿論、僕も同様に。
「すみません」
 彼は凛と通る声でそう言った。緊張と、警戒と、恐縮と、儀礼がましさが混ざったような声色だった。「どうか、驚かないで聞いていただきたい」
 返事をする者はいなかった。皆が悲しみの深淵にいて、彼の言葉を理解するまでに思考が回復していないのだった。僕は「はい」と小さく言った。
「もしかしたら彼女を救えるかもしれません」彼は丁寧に言った。「何か、見えない力でそこに引き寄せられるんです」
 僕は確信した。この人こそが、神様の選んだ相手だったのだ、と。
 僕の愛する女性は、彼の元でなら幸せになれる、と。
 嬉しいはずなのに、悲しみと切なさとで胸がきゅうと締め詰められる。
 いつだって、此処は主演舞台にはなれない。此処にいたのでは、彼女は一生幸せにはなれない。此処は通過点に過ぎないのだ。だって僕らにはその資格がないのだから。
 彼女が助かるならそれでいいじゃないか。
 おもむろに彼女の遺体に近づく彼を、制するものはいなかった。誰もが全てを、彼に委ねているのだ。
 僕らに向かって恭しく一礼をすると、申し訳ないような表情で棺を眺める。ゆっくりとしゃがみこむ彼の頬に、木漏れ日がパラっと光を投げた。棺桶の中に置かれた手元に、花びらがふわりと舞い上がる。
 神秘的な光景だった。
 彼がその唇をそっと彼女の青ざめた唇に重ね合わせ、彼女がにこりと微笑んで目を開けた時、僕の頬を初めて涙が伝った。
しらゆきひめ
しらゆきひめ
矢川 澄子, こみね ゆら
02:08 | リアル童話(テキスト) | comments(2) | trackbacks(0)
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コメント
>しん
書いてて思ったんだけど、いきなり来てキスする王子変態ね
w茨の道も通ってないし、竜も倒してないのに・・・w
何も苦労せずゲット、ですか。
2004/08/03 3:21 AM by 奈々
 こびとの視点からの白雪姫ですかぁ。
2004/08/01 2:33 PM by しん
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