みずがらす
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【テキスト】リアル童話【再編】
●前のサイトで載せてたテキスト、もったいないから持って来ました。

『あの童話を劇画に』

 コツンコツン、というノック音が、電気もついていない小さな8畳間いっぱいに鳴り響き、やがて沈黙した。
 大声を上げて逃げ出したい気分だった。耳を塞いで、ドアと窓からそれぞれ一番遠くなるような場所に移動して、体をまるめて猫みたいに小さくなった。こうしていないと恐怖がわきの下やら足の隙間からするすると入り込んでくるような気がしたからだ。
 コツン、コツン。
 不安はどこからやってくるでもなく、気付くと僕の首筋のすぐ後ろまで来ている。特にこの家に越して来てからその頻度は増えていった。
 ドンドン
 ガタン、ガタン
 ガッ、ガッ、ガッ
 今僕の後ろの、申し訳程度につけられたような短い廊下の向こうで、ドアが激しく連打される。これは現実だ。格闘ゲームのボタンと間違えているのだろうか、狂ったように叩かれる木製のドア。キングコングみたいなマッチョな奴が叩いているわけではないのだから大丈夫と分かっていても、いつこの檻は壊されるのだろうかという不安でたまらない。檻に入っているのはコングじゃなくて僕の方なのに、どうしてそんなに叩くのだろうか。
 万全を期して製作したはずなのに、あのドアは今にも内側に反り返ってバキンと折れてしまいそうだ。ドアノブなんて、やつの短絡な思考回路の内には存在しない。障壁を乗り越え、目的はただ一つ、この僕を喰らうこと。
 通気性の良かったはずの窓は、いまや何重にも重ねて打ち付けた板で風と光の出入り口を完全に失っていた。それでも、板と板の隙間から臭ってくるはずの腐敗臭が届かないことが唯一の救いだった。窓の外には、二体の死体がまだ新鮮な状態のまま放置されているのだろう。ハエさえもたかっていないような状態で。そう、5分ほど前にやつの手にかかった僕の兄貴の死体が。
 まだ僕がよちよち歩きだった頃から何かあるとすぐに助け起こしてくれた兄貴。母さんに叱られた後、だまってハンカチを差し出してくれた兄貴。僕が建築学に興味を持ち始めた頃から、僕と二人の兄貴はなにかどこかがぎこちなくなっていた。成績優秀な弟と、零落した兄たち。僕達はいつも周りからそんな視線に晒されてきた。思えばそれが狂い始めた歯車の最初の1個だったのかもしれない。
 あと3分、あと3分早く此処にたどり着いていれば、兄貴は助かったのだ。運命の歯車は、たった3分の甘えも許さなかった。
 僕は自分の冷酷さを悔いた。もしもあの時、意地を張った兄貴を張り飛ばしてでも、彼の家の建築を僕が手がけていれば。しかし今となっては家はおろか兄貴さえも、もはや原型をとどめてはいないに違いなかった。
 絶叫にびくりとして覗いたドアの数ミリの隙間から見えたあの猟奇的な瞳は、これからの兄貴の身に起こる全ての惨状を物語っていた。あと数ミリでもドアを広く開け放していたら、僕は今この場にいなかっただろう。奴の狂気に切り刻まれて、何グラムかの肉片と化しているはずだ。肉親を見殺しにできないというノエシスを、奴の酩酊したような眼光はいとも簡単に僕の条件反射の項目から消し去った。
 今はどうにかして、自分が生き残る方法だけを全身全霊で専心しなければならない。自分もあの鋭牙に殺られるということを考えると、身震いがする。
 ドアから伝わり僕のところまで届くあの振動は、僕の内臓から骨まで全てをハンマーで叩き潰そうとするかのような強さだった。いくら耳を塞いでも、頭蓋骨に響いてくる。
電気が通っていないこの家に太陽光以外の灯りは存在していないため、暖炉で火を起こす以外照明という照明がない。よって家の中はほとんど真暗闇に近かったが、それでもどこかに抜け穴があるのではないかという気がして、気が気ではない。
 突然、耳をつんざくような殴打音が止んだ。一分経っても、反応がない。
 ドアから入るのを諦めたのだろうか?奴の気配が一瞬にして一点から周囲360度に拡散する。見通しの悪い室内は、隠れやすいという利点を持つ一方動きにくいという欠点を持つ諸刃の剣だった。
 奴はいまどこにいる?
 僕の後ろか?右か?左か?
 ガタン、と頭上に衝撃が走った。
 ・・・しまった!!
 僕はがばっと身を起こし、自分でも信じられないような速度でキッチンに走った。途中でテーブルの角に足をぶつけたが、そんなことは気にしていられない。
あそこには、進入口があるのだ。
 うっかりしていた。いや、うっかりでは済まされない。壁際に組まれた煉瓦の囲いに飛び込んで、灰の中に突っ伏し首をぐるりと上によじると、そこから天に向かって伸びる縦長い角柱の先端にある豆電球ほどの小さな光が僕の瞳をほぼ垂直に直撃した。
 煙突を忘れていた。あの高さでは僕には塞ぐことができない。それどころか、もう塞いでいる時間もない。
 眩しくて目を細めると、上方5メートルほど先にある光源が一緒に一回り小さくなった。
 誰かが、いや“何か”が、その光源を遮っている。
 目を凝らした瞬間、僕は驚怖で戦慄した。
 金色に輝く二つの光線が、獲物を捉えていた。暗黒の闇にぬらりと光るその瞳は、宵に浮かぶ月よりも明るく、不気味に照り耀いている。
 ・・・見つかった・・・
 即座に顔を引っ込めたが、もう遅い。やつのあの眼は、今にでもこの穴に飛び込みそうな狂気に満ちていた。梯子の付いていないこの煙突は飛び降りるには高すぎるが、周囲の煉瓦に足をかけてゆっくりと降りれば、ものの十分で下に到着することが可能だろう。
 時間がない。

 僕の中には、もうあの方法しか残っていなかった。
 殺られる前に、殺れ。
 引っ込み思案で臆病な僕がこんな決意をするなんて、兄貴が知ったら驚くだろうなと思った。肝心の兄貴はもうこの世にいないけれど。
 僕はキッチンを見渡した。やはり、一人暮らしの家には使えそうな道具が少なすぎる。しかしここで取り乱してしまっては余計に混乱するだけだ。僕はキッチンの真ん中で、アイデアを搾り出した。そして、一直線に浴室へと向かった。
 僕のからだの二周り以上もある甕を、渾身の力を込めて転がす。浴槽として使用しているものだった。取っ手が、煉瓦の床に当たってゴツゴツと鳴る。バランスを崩さないように、全身で暖炉の中心に据えた。暖炉の周囲から飛び出す突起に、甕の取っ手を引っ掛け、てこの原理で上下するようになっている金具を下へと引き下げる。甕は一瞬ぐらついたが、反動で灰の中からその全身が30センチほど浮いた。
 この間約5分。屋根の上を這い回るように足音が動く。袋の鼠を隅に追い詰めることを、 僕の精神をじわじわと破壊することを、奴は楽しんでいるようだった。
 ぐずぐずはしていられない。僕はキッチンの隅に置いてある差し渡し二メートルばかりある水甕の中から、桶を使って水を汲み上げ、暖炉にくべてある甕に移し始める。水量は多くても少なくてもいけない。一心不乱にがばがばと水を移し続け、半分ほど溜まったところでもう一度首を上によじった。
 煙突口から足がにゅっと伸びていた。奴が侵入し始めている。
 まずい、間に合わない。
 僕はこれ以上の水の投入を諦め、薪に火をつけた。
 建築を学んだ僕は、燃えやすい木を選別することにもまた信念を置いていた。炎は瞬く間に威力を増し、甕の周囲を猛然とした勢いで熱していく。
 突然、奴の笑い声が空洞の中に響いて、僕は震え上がった。熱と煙で突破口を塞いだところで、やつは慎重に甕を避けて降りてくるつもりらしい。小賢しい細工をしても無駄だ。殺人鬼はそう嘲笑しているのだ。
 僕は暖炉から一番遠くの部屋の隅にうずくまった。室内に侵入されたらどこに逃げてももうお終いだ。奴は床板を引きちぎってでも僕の匂いを探し当てるだろう。
 バクバクと鼓動が聞こえる。甕がぐつぐつと音を立て始め、僕の鼓動と重なった。今頃は湯気が立ち上り、煙突の中に充満しているだろう。やつの視界を曇らせるには十分とは言えない湯気が。
 かみさま。
 そう願うのが後か先か、ゴトゴトと地鳴りのような振動が僕を襲い、次の瞬間にはバッシャーンという激しい水の跳ねる音が聞こえると共に、今まで聞いたこともないような絶叫が家中を貫いた。
 ぎゃああああああああああっっっ!!!!
 全身から搾り出すような、苦悶の吼え声だった。地獄の底からの、剥き出しで手放しの魑魅魍魎の咆哮だった。僕は恐怖に打ち震えた。全身の毛が逆立って、さざ波のようにさあっと広がる。背中から腕の先端に震えがピン!と伝わったところで、我に帰った。
 キッチンに飛び込むと、僕は目を瞠った。奴が・・・赤黒く変色したからだをバタバタさせて、煮えたぎる熱湯の中で踊っていた。火力は最大だ。奴は甕の中で体制を取り戻せずに、仰向けのままもがいていた。そして十秒もしないうちに、その悲鳴は鋏で断ち切られたみたいにピタリと止んだ。
 残響が頭に残る。息絶える寸前の、一瞬のそのまた十分の一くらいの短い時間、奴が見せた苦悶の表情がストップモーションみたいに眼に焼きついている。
 そっと近づき暖炉を覗くと、そこには変わり果てた奴の姿があった。甕の表面に焼き付いてだらりと形を変えた皮膚、散り散りになって残っている毛の一部。そして饐えた臭いと共に赤黒い液体の中に浮かぶ二つの眼球があった。金色の光彩を放っていたソレは、今やくすんで色を失ったピンポン球でしかない。
 気付かないうちに自分が笑っていることを知った。ふと我に帰るとどういうわけか、嬉しいわけでもないのに、口元がにんまりと三日月形を作っていた。
 家財選びに関してはプロとしての自身と誇りがあった。湯気を浴びて水蒸気が十分に付着した煉瓦を足場にしたらどうなるか、そんなことは勿論わかっている。僕は建築学者だ。
 ただこの材料なら、コックでなくともいい味が出せるだろうな、と思った。


さんびきのこぶた
さんびきのこぶた
とりごえまり
01:00 | リアル童話(テキスト) | comments(3) | trackbacks(0)
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01:00 | - | - | -
コメント
>しん
描写とか書くのはイイんだけど構成はめんどいので出典アリで書いてみましたwかなり自己満足ですが(w お兄さんたちは死んじゃいました(ぉ

>阿寒さん
いつもながらだけど、阿寒さんはコメントまで面白いよね!w読んでて楽しいwしかも阿寒さんが聖徳太子の記事で出したコメントが偶然グーグルに引っかかって、今「聖徳太子知ってる」で検索すると二位なんですよ(笑 感謝してますw

話は戻って、とにかく怖いシーンを書いてみたくて(何)童話を使ってみたんですが・・・読んでもらえて嬉しいです!wしかも褒めてもらっちゃって・・・(照 まだまだ未熟ですが色んな作家から盗んで語彙力共に文章の力をつけたいですw
という私、文法がなってないってよく言われますが(笑
2004/07/13 3:40 AM by 奈々
完全に裏切られた・・・・
喰らうとか殺人鬼とかいってたから、途中まで俺の予想ではこのびびってる子は、実は精神障害者で、被害妄想が酷く、普通のなんでもない人を妄想の末に殺してしまう癖があるんかなぁーとか暢気に展開を予想してたら

ブタかよ

正直センスに驚かされた。やっぱり綿矢りさだ。
2004/07/12 1:14 AM by 阿寒 条
 やっぱり三匹の子豚だったかぁー!建築学とか兄とかでピンときたww
2004/07/11 9:49 PM by しん
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