みずがらす
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【テキスト】リアル童話
『あの童話を劇画に』

 私には、忠誠を誓った君主様がいらっしゃいます。
 貴女は気高く、美しく、全ての民をその暖かい御加護によって平和と愛に満ちた世界に保つ力をお備えになった女神様です。私はこのようにか弱いものですから、貴女の御傍に生涯、この身が尽きようともお慕いし魂をも捧げん覚悟でございます。ですから、このような身を裂かれるような決断の時に対峙することになろうとも、決して魂を揺らすような事があってはならないと深く心得ております。しかし・・・
 しかし私の脆く醜いこの体は、先ほどから煮えたぎっている熱い胸の衝動と身勝手な卑怯者の邪心を止める事が、もはや出来ないのでございます。女神様を裏切るなどと言う冒涜を犯した私に、天はきっとこの世界に留まる事をお許しは下さらないでしょう。
 勿論私は女神様が誤った道を踏まれるという事など、これまでただの一度も、想像さえした事がありません。しかし、私は親切なお方からの一宿一飯の恩義というものを、仇でお返しするような、そのような心の汚いものには成り下がってはならないと、いつも女神様、貴女からお教えいただいて参りました。
 今がその時なのです。あの方の度量をお確かめになろうという女神様の御心はじゅうじゅう承知しております。この桃源郷の所在地を外界の者に知られる事がどんなに危険な事なのか、私も分からないわけではありません。その為にあの方にあの魔法を御仕掛けになったのも、至極当然の事でございます。
 ただ、私はもう貴女の御傍に御仕えする事はできなくなりました。何故なら、私は今日、あの方の元へ旅立つからでございます。この身が二つあろうものなら、どんなに良いことでしょう。しかし、天はそれをお許しになりませんでした。そして、どちらか一方を選ばなければならないのであれば、私はあの方に着いて行きます。あの方には、私以外、その身を寄せる相手がいらっしゃらないはずだから。
 ご無礼をお許し下さい。私は外界からも、いつも貴女の事をお慕いしております。どうか、お見逃し戴ける事を。

 ――書置きを残して、私は道を急ぎました。もうあの方は、禁断の魔法に手を伸ばしてしまったかもしれない。女神様の魔法は、決して打ち破る事はできないのです。未然に防ぐ事も不可能だと、預言者としてのあの女神様はご存知でいらっしゃいます。私が行った所で何も変わらないかもしれない。けれど、今は恩人の、私の命を救ってくださったあのお方に、一目でもいいからお会いしたい。
 私は運命の惨酷さを呪いました。何故あの方は、このような仕打ちを受けなければならないのか。女神様を愛してしまったというだけの、それだけの罪において。女神様を見て、恋に堕ちぬ者などいるはずがないのです。それが人間の汚い欲望であるというのなら、なぜあの方でそれをお試しにならなければいけなかったのか。あの方は、正しいお方であるはずなのに。
 松葉の香りが懐かしい、波打ち際にあの方は立っておりました。必死で走ってきた私に、あのお方はいち早く気付いてくださいました。あの時も同じ。この海岸で、私と初めてお会いした時。あのお方は私という下等な者に深い御慈愛を注いでくださいました。
 どうやら私は、間に合わなかったようです。
 たった今味わったばかりの女神様の呪いを受けて、失意と絶望の底に沈んでいらっしゃるそのお顔には、大粒の涙が溢れんばかりでした。何もかもを失ったそのお姿は、今にも塵となって空に消えてしまいそうでした。しかし、あのお方の私を見つめるその眼差しには、あの日と変わらぬ正義に満ちた輝きが宿っておりました。
「あなたは・・・!」
 あのお方は必死に這い寄った私を抱きしめ、声を限りに泣き出しました。今まで、あの方がお泣きになられているところなど、私はただの一度も拝見した事がありませんでした。
「どうしてこんなことになってしまったのです。私はもう、生きる希望を失った」
 あのお方はやつれたお顔で私にすがり泣きました。
 足元には、未だ煙の立ち上がる、珊瑚細工の綺麗な箱が転がったままでした。それはまがいのない、女神様の呪いの残骸です。
「全てが、見知らぬ土地なのだ。知り合いなど一人もおらぬ。私はこの世で唯一人だ」
 私はあの方に抱きしめられながら、目を閉じ、優しく微笑みました。
「大丈夫、私がずっとあなたの御傍にいます。私は万年の命ですから」


 白砂の舞う昼下がり、老いた漁師と一匹の亀は、いつまでもそうして時を慈しんでおりました。


うらしまたろう
うらしまたろう

00:33 | リアル童話(テキスト) | comments(3) | trackbacks(0)
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コメント
>水原様
お褒めの言葉ありがとうございます!m(_ _)m
いつも西洋の話なので今回は日本の話で・・・って偶然思いついただけですけどw
私のテキストはネタが運良く思いついたときにしか刊行されないという実に都合のいいものですので(笑
日菜子さんの過去の残骸も統一感あってウマイと思います。お題シリーズってバラバラに書きがちですけどね。

>阿寒さん
台無し狙いですwというか元ネタを推理してもらうっていうのがないとアレですから、見所とか一切ないですからw表現とかも月並みだし^^;
てかなかなかオチ考えるのって難しいですね。でもまぁ亀の事は前から疑問だったんでねw(恩返しのはずが最後は無視?って)今度はカッコイイ終わり方できるように頑張りますww
2004/09/28 2:06 AM by 奈々
亀すごいイイ奴。でも亀じゃなかったらもっとカッコよかったなぁ・・・
だって、この文章読んだ後に「うらしまたろう」という最後の画像の堂々具合が、あまりにも俺の笑覚を刺激して台無しになってしまう・・!
まぁ、それが狙いなんだろうけどねw
2004/09/25 8:10 PM by 阿寒 条
今回は最後まで何が元になってるのか分かりませんでした。
お見事です。
「女神様」というところから西洋童話だと思ってました。
亀がいれば浦島太郎も寂しくありませんよね。
2004/09/25 1:39 PM by 水原日菜子
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