みずがらす
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【テキスト】リアル童話
「また靴替えた?」
 ジミ男が半ば呆れた様に、指に挟んだタバコで足元を指差した。返事の代わりにギロリと睨むと、奴はもうソッポを向いて次の思考を開始している。同じ事を5分と考えていられない。自分が言い出したことは3秒で忘れる。
「金無い?」
 恐喝ぎみに凄んで見せた。ジミ男は相変わらずジミなグレーのカットシャツにジミに端々が切れたジーパン姿で、ダルそうに流し目をキメてくる。金髪なのに存在感が皆無。だからジミ男だってのは言うに及ばず。
「君さ、昨日親から貰ったんじゃないの?その、お金をさ」
「貰ったんじゃねぇよ。"ポケットから落ちたのを拾った"の」
「君んとこは、親がお札を"落とす"んだ?」
「札は束じゃなきゃ意味ねぇだろうが」
「君、目つきが悪いよ。その癖直せば」
 話を逸らすのがジミ男の得意技。否、隠し技。大抵はコッチが気付かない。
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02:00 | リアル童話(テキスト) | comments(0) | trackbacks(6)
【テキスト】リアル童話
 深い茂みの中に、二つの足音が響いていた。
 葉の擦れ合うリズムは次第に速さを増し、追う者と追われる者の距離を少しずつ縮めている。太陽は高い位置にあり、辺りは木漏れ日に満ちていた。
 
 俺は目の前の獲物を常に視界の端にかろうじて捕えながらも、ほぼ盲目的に、狂気的に走り続けていた。葉の間から断続的に網膜を刺激する太陽光が俺の理性を麻痺させる。飢えた獣の息遣い、それが自分から感じられた。狩というものは決して容易いものとは言えない。目の前で自分の手により息を引き取る生命体。驚愕に支配された絶望的な視線が、自分はこれから死に行くのだと言う事実さえも思い起こせぬまま固まって俺の脳裏に焼きつくのだ。
 しかし殺らなければ自分の命を落とす事になる。この世界での暗黙の了解、自然の摂理だ。俺はそうやって毎度毎度矛盾した哀れみを、彼らの閉じゆく瞳の最期の瞬間に投げかけて、不条理な死を宣告しているのだ。
 本能というものは恐ろしいもので、そのように理屈では同情だとか自己犠牲の必要性だとかを多弁に奮っていたとしても、いざその瞬間となると我を忘れて獲物を追いかけてしまうという危険な分子を備えている。俺が現在追っている獲物は、本来ならば失われるべきではない命・・・自らの規制によって解き放たれるべき命だ。それなのにどういうわけか、この本能という厄介な因子を止める事は出来ない。『人虎伝』さながらに、俺は白昼の森を駆け抜けていた。血を求め、肉を求め、魂を求めて―
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03:22 | リアル童話(テキスト) | comments(0) | trackbacks(0)
【テキスト】リアル童話
『あの童話を劇画に』

 私には、忠誠を誓った君主様がいらっしゃいます。
 貴女は気高く、美しく、全ての民をその暖かい御加護によって平和と愛に満ちた世界に保つ力をお備えになった女神様です。私はこのようにか弱いものですから、貴女の御傍に生涯、この身が尽きようともお慕いし魂をも捧げん覚悟でございます。ですから、このような身を裂かれるような決断の時に対峙することになろうとも、決して魂を揺らすような事があってはならないと深く心得ております。しかし・・・
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00:33 | リアル童話(テキスト) | comments(3) | trackbacks(0)
【テキスト】リアル童話2
『あの童話を劇画に◆

あちこちですすり泣きが聞こえる。花が、木が、そして空が泣いているのだ。
 僕の隣で、一つ下の弟が囁いた。「どうして、人は死ぬんだろう・・・」僕は答えられなかった。きっと、花や木が枯れてしまうのと一緒なんだよという答えでは、弟はもう満足しない。
 愛する人の死。愛というものが何なのか、僕にはまだ説明できない。しかし数分前に、僕のからだは理解した。失いたくないもの。失うと、目眩がするほど苦しくなるものだ。
 ジリジリと照りつける太陽。からだの表面と内側が、同時に焼けるような感覚を味わった。汗が頬を伝い、顎に届いた所でぽたりと垂れる。涙かと思ったが、僕はまだ泣いていなかった。
 いつ頃からだったろう。彼女が僕ら兄弟の傍にいるようになったのは。血管も透き通るような透明な肌に、ぽっと紅を差したような赤い唇。黒檀のような黒髪に大きな瞳。しなやかな腕はフライパンを持つと奇術のように器用に動き、ほっそりとした足は箒を持つと魔法のようにダンスする。僕らはそれを眺めるのが大好きで、彼女自作の唄に合わせて毎日一緒に歌ったり、家事を手伝ったりした。
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02:08 | リアル童話(テキスト) | comments(2) | trackbacks(0)
【テキスト】リアル童話【再編】
●前のサイトで載せてたテキスト、もったいないから持って来ました。

『あの童話を劇画に』

 コツンコツン、というノック音が、電気もついていない小さな8畳間いっぱいに鳴り響き、やがて沈黙した。
 大声を上げて逃げ出したい気分だった。耳を塞いで、ドアと窓からそれぞれ一番遠くなるような場所に移動して、体をまるめて猫みたいに小さくなった。こうしていないと恐怖がわきの下やら足の隙間からするすると入り込んでくるような気がしたからだ。
 コツン、コツン。
 不安はどこからやってくるでもなく、気付くと僕の首筋のすぐ後ろまで来ている。特にこの家に越して来てからその頻度は増えていった。
 ドンドン
 ガタン、ガタン
 ガッ、ガッ、ガッ
 今僕の後ろの、申し訳程度につけられたような短い廊下の向こうで、ドアが激しく連打される。これは現実だ。格闘ゲームのボタンと間違えているのだろうか、狂ったように叩かれる木製のドア。キングコングみたいなマッチョな奴が叩いているわけではないのだから大丈夫と分かっていても、いつこの檻は壊されるのだろうかという不安でたまらない。檻に入っているのはコングじゃなくて僕の方なのに、どうしてそんなに叩くのだろうか。
 万全を期して製作したはずなのに、あのドアは今にも内側に反り返ってバキンと折れてしまいそうだ。ドアノブなんて、やつの短絡な思考回路の内には存在しない。障壁を乗り越え、目的はただ一つ、この僕を喰らうこと。
 通気性の良かったはずの窓は、いまや何重にも重ねて打ち付けた板で風と光の出入り口を完全に失っていた。それでも、板と板の隙間から臭ってくるはずの腐敗臭が届かないことが唯一の救いだった。窓の外には、二体の死体がまだ新鮮な状態のまま放置されているのだろう。ハエさえもたかっていないような状態で。そう、5分ほど前にやつの手にかかった僕の兄貴の死体が。
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01:00 | リアル童話(テキスト) | comments(3) | trackbacks(0)